「Lenovo Tech World Japan 2026」記者説明会
レノボ・ジャパンは「Lenovo Tech World Japan 2026」を開催し、同社の最新のAI戦略と技術、そして日本市場へのコミットメントについて記者説明会を行いました。本稿では、レノボ・グループのアジア太平洋地域プレジデントであるアマール・バブ氏、レノボ・ジャパン合同会社代表取締役社長の檜山太郎氏らによるプレゼンの内容をレポートします。

「Hybrid AI」と日本市場へのコミットメント
冒頭に登壇したアマール・バブ氏は、レノボが世界180の市場で事業を展開し、約7万2000人の従業員と30以上の製造拠点を有するグローバル企業であることを強調しました。日本市場については、北米、中国に次ぐ世界第3位の重要市場であり、PC分野でのシェア1位を維持しているほか、ThinkPadの研究開発拠点である大和研究所を擁するなど、20年以上にわたり深いコミットメントを続けていると述べました。


バブ氏は最新の決算にも触れ、売上高が前年比18%増の220億ドル超、純利益が同36%増と好調であることを報告しました。特筆すべきはAI関連の売上が全体の約3分の1(32%)を占め、前年比72%増という急成長を遂げている点です。
レノボが掲げるAI戦略の中核は「Hybrid AI(ハイブリッドAI)」です。バブ氏は、AIが「パブリックAI」「プライベート(エンタープライズ)AI」「パーソナルAI」の3つに分化して進化すると予測しています。特にデータのセキュリティとプライバシーを重視し、企業データは組織内で、個人データは個人のデバイス内で処理・保護されるべきだという考えを示しました。このビジョンを具現化するものとして、複数のデバイス間で連携するパーソナルAIエージェント「Keyla」などが紹介されました。

AIの主戦場は「学習」から「推論」へ
続いて登壇した檜山太郎氏は、日本を含むアジア太平洋地域のCIO(最高情報責任者)を対象とした調査「CIO Playbook」の結果を引用し、企業の93%がAIへの投資を計画または実施しており、すでに導入済みの企業の83%が投資対効果を感じているという現状を紹介しました。

檜山氏が特に強調したのは、AI処理のトレンドが「学習(Training)」から「推論(Inference)」へとシフトしている点です。2030年までにはAI関連の処理の75%がデータセンターではなく、PCやエッジサーバーなどの「エッジ側」で行われるようになると予測されています。これに伴い、かつてクラウドに集中していた処理が、再びオンプレミスやエッジへと分散する大きな揺り戻しが起きていると指摘しました。

この「推論」需要に対応する製品として、檜山氏はデスクトップ型スーパーコンピュータとも呼べる「PGX」を紹介しました。NVIDIA製のGPUを搭載し、広帯域メモリと強力な演算能力を持つこのデバイスは、手元で大規模なAIモデルを回すことを可能にします。
国内の事例として、藤田医科大学病院における生成AI活用が紹介されました。同病院では、カルテや看護記録などの分散したデータから退院サマリや保険申請書類を自動作成するシステムを導入し、3ヶ月で医師や看護師の業務時間を約1000時間削減することに成功しました。
また、檜山氏は将来のパーソナルAIの姿として、モトローラのネックバンド型デバイスを用いた「デジタルツイン」の構想も披露しました。カメラとマイクでユーザーの視覚・聴覚情報を記録し、ライフログを蓄積することで、ユーザーの思考や行動を模倣・補完するAIの可能性を示唆しました。

「電力の壁」と冷却技術への挑戦
AIの普及に伴い深刻化しているのがデータセンターの電力消費問題です。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社代表取締役社長のチョウ・ライ(張磊)氏は、2030年までに世界の電力の約1割がデータセンターで消費される可能性があり、そのうち約4割が冷却に使われていると指摘しました。

この課題に対し、レノボは水冷技術「Lenovo Neptune」を推進しています。温水を利用した冷却により電力効率を劇的に改善する技術です。パネルディスカッションでは、株式会社リクルートの片岡歩氏とMCデジタル・リアルティ株式会社の畠山孝成氏が登壇し、実用面での議論が行われました。

リクルートの片岡氏は、クラウドコストの高騰を受け、オンプレミスのデータセンター活用に回帰している現状を説明しました。その際、空調コストが大きな課題となるため、室温でも稼働可能なNeptuneの水冷技術に注目し、コスト削減と環境負荷低減の両立を目指していると述べました。MCデジタル・リアルティの畠山氏は、データセンター事業者として、AI向けの超高密度ラック(1ラックあたり100kW超)や液冷(Direct to Chip)への対応を進めており、顧客のニーズに合わせてインフラを進化させていると語りました。


FIFAワールドカップにおけるAI活用
最後に、ソリューション&サービスグループのCMOであるデイビッド・ラビン氏が登壇し、FIFAとの公式テクノロジーパートナーシップについて説明しました。2026年の北米ワールドカップでは、レノボの技術が運営、ファン体験、競技分析の全方位で活用されます。

David Rabin氏
具体的には、膨大な過去の試合データや選手の統計情報を自然言語で検索・分析できる「Football AI Pro」、3Dアバターを用いて判定の透明性を高める「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)デジタルアバター」、激しく動く審判のボディカメラ映像をリアルタイムで補正する「レフェリービューAIスタビライザー」などが紹介されました。また、スタジアム運営においては、デジタルツインを活用した群衆管理やインシデント検知を行い、安全で効率的な大会運営を支援します。




質疑応答
記者説明会では、AI需要の急増に伴う供給懸念やパートナーシップ戦略について活発な質疑応答が行われました。主なやり取りは以下の通りです。

──AIの普及によりメモリやストレージなどの部材不足が懸念されるが、サーバー製品への影響は。
檜山氏: 需要が供給を上回る事象は確かに起きている。しかし、レノボはグローバルでの強力な調達力を持っており、これを最優先課題として対応している。
バブ氏: 我々のグローバルサプライチェーンは、Gartnerのランキングでアジア太平洋地域1位の評価を得ている。世界10カ国以上に30以上の製造拠点を持つ強みを生かし、価格競争力を維持しながら安定供給に努める,,。
──AI戦略におけるパートナー企業の役割は。
檜山氏: AIの推論処理のニーズは顧客ごとに異なるため、画一的な製品提供だけでは不十分だ。藤田医科大学病院の事例のように、顧客の課題を深く理解し、技術を実装していく上で、SIerやISV(独立系ソフトウェアベンダー)との連携は不可欠と考えている。
──「Lenovo AI Factory」とNVIDIAの提唱するAIファクトリーの違いは。
ラビン氏: これは競合ではなく、包括的なパートナーシップだ。インフラ、ソフトウェア、サービスの全レイヤーでNVIDIAと連携している。レノボの強みは、検証済みのソリューションを「ライブラリ」として持ち、顧客が図書館から本を選ぶように最適なAIモデルを選び、サービスを通じて即座に実装できる点にある。
まとめ
本説明会を通じ、レノボは単なるハードウェアベンダーから、AIソリューション全体を提供するプロバイダーへの転換を強く印象付けました。クラウドからエッジ、デバイスに至る「Pocket to Cloud」のポートフォリオと、強力な冷却技術、そしてグローバルなパートナーシップを武器に、AIの実装フェーズにおけるリーダーシップを確立しようとする同社の姿勢が明確に示されたイベントとなりました。


