国立大学法人東北大学とソフトバンク株式会社は2026年7月27日、「ソフトバンク・東北大学 AI for Disaster Science共創研究所」の設立に関する調印式および記者説明会を開催した。

同研究所は、2026年8月1日に東北大学災害科学国際研究所内に設置。地球観測や社会動態のデータ、物理シミュレーションを組み合わせた「災害デジタルツイン」と、防災に特化したAIを融合させることで、「AI for Disaster Science基盤(以下、AI4DS基盤)」の研究開発および社会実装を推進する。

東北大学は「実学尊重」の理念のもと、2011年の東日本大震災の経験を踏まえ、災害科学の研究成果を社会に役立てる取り組みを続けている。一方のソフトバンクは、日本の環境やデータに合わせたAI開発を推進。両者の知見と技術を生かした本共創研究所では、ソフトバンクの次世代事業開発本部本部長であり、8月1日付で東北大学の特任教授に就任する淺沼邦光氏が運営総括責任者を務め、東北大学災害科学国際研究所の所長である越村俊一教授が運営支援責任者を務める。設置期間は2026年8月から2029年7月までの3年間を予定している。
東北大学が内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のもとで研究開発を進めている「災害デジタルツイン」は、物理世界のデータを仮想空間上に構築し、将来予測などのシミュレーションを実行する技術。すでに津波の発生と浸水状況において、最短20分未満で被害を予測してレポートを自動生成するシステムが実用化されており、今後は最短5分での予測完了を目指している。さらに、被災地の人的・物的被害の予測や、医療資源の需要と搬送問題の分析など、対応の弱部を量的に明らかにする機能も有している。

ソフトバンクは、国産の大規模言語モデル(LLM)や視覚言語モデル(VLM)などのAI計算基盤と開発力を持っている。このAIに、東日本大震災をはじめとする過去の災害記録、「みちのく震録伝」などのアーカイブ、対応の成功や失敗事例、教訓、地域特性などを学習させる。
本共創研究所における中核技術は、災害デジタルツインが出力する浸水深や到達時間といった数値ベースの時空間データを防災AIの内部表現と紐付け、社会的に意味のある言語へと変換する「記号接地」。これにより、シミュレーション結果が単なる地図上のデータにとどまらず、「10分後に2階まで浸水するため、3階以上へ逃げてください」といった個人の行動に直結する自然言語による指示が可能になる。
また、災害発生前から仮想空間で街づくりを実験し、その結果を人間が理解できる形で言語化する事前復興計画への活用など、平時の備えから発災時の判断、復旧・復興までを一気通貫で支援する。

2026年度の実証実験として、宮崎県日向市における総合防災訓練の中で、南海トラフ地震による津波災害を想定したシステムの検証が計画されている。具体的には、災害デジタルツインとAI技術を活用し、ドローンを用いた避難支援の有効性の検証や、ログの収集・分析を行う。まずは津波災害を起点に開発を進め、将来的には地震や火山災害、洪水など、複合的なハザードに対応できるよう拡張していく方針だ。

記者説明会で越村教授は、自国のデータをもとに独立して運用管理する「ソブリンAI」の重要性を指摘。本共創研究所で開発されるAI4DS基盤は、両者のみで占有するのではなく、政府や自治体、大学、研究機関、民間事業者へ幅広く提供される計画とのこと。多様なユーザーが参加し、新たな災害データや事例を継続的に学習させることで、「データとAIの防災集合知」の共同利用・共同研究拠点へと発展させ、自律的に成長するシステムによる災害に強い社会の実現を目指すとしている。



