KDDIグループで金融領域を担うauペイメント株式会社とauフィナンシャルサービス株式会社は、2026年7月1日の合併を前に、6月30日に都内で「合併記者発表会」を開催した。新会社「新生auフィナンシャルサービス」の代表取締役社長に就任する長野敦史氏が登壇し、合併の背景と今後の成長戦略について説明を行った。

長野社長は、AIが社会インフラとして急速に浸透するこれからの時代において、単なる効率化は長期的にコモディティ化を招き、「AIで壊されにくい価値」の創出こそが競争優位につながると指摘した。国内のキャッシュレス市場の決済比率が58%に達し、普及フェーズから浸透フェーズへと移行する中、消費者や事業者が抱える決済手段の乱立による使い分けの煩雑さや、導入コストといった課題を解決するため、体験を変革することが合併の大きな狙いであると語った。

今後の戦略の柱として、長野社長は「Rewire(つなぎ直し)」というコンセプトを発表した。具体的には以下の3つの領域で関係を再構築していくという。

第一に「お客さまとの関係をRewire」する施策として、現在4,042万の会員を持つau PAYアプリを、顧客一人ひとりに寄り添う「ウォレット」へと進化させる。決済機能に加え、銀行、資産運用、ヘルスケア・保険といった各種金融サービスやライフサポート機能を統合し、顧客データを学習した独自のAIエージェントと連携させる構想だ。このアプリのリニューアル実装は2027年度以降を順次予定している。

第二に「加盟店さまとの関係をRewire」する施策として、手持ちのスマートフォンをそのまま決済端末として利用できる次世代決済プラットフォーム「NESTA mobile(仮称)」を2027年春にリリースする予定を明らかにした。主に中小事業者や個人事業主をターゲットとし、決済機能だけでなく、資金繰りや集客サポート、業務効率化といった経営支援機能も簡単に受けられるようにするという。

第三の「くらしとの関係をRewire」では、決済の前後に発生する消費者の「探す」「比べる」「シェアする」といった行動データを活用し、エンタメやヘルスケアなど異業種のパートナー企業との共創を通じて、生活全般の体験価値を向上させるサイクルを目指すとした。

財務面においては、合併前の両社の事業が順調に拡大しており、2025年度の単純合算で売上高1,773億円、営業利益272億円に達した実績を強調。2030年に向けて、売上高・営業利益ともに年平均成長率(CAGR)2桁成長を継続するという目標を掲げた。

また、合併を記念した足元の新サービスとして、7月1日より「au PAY アプリ」からの「au PAY カード即時発行」機能の提供を開始する。これにより最短数分で審査が完了し、カード到着前にアプリ上でのオートチャージ設定や利用が可能になる。あわせて、従来はゴールドカード会員のみを対象としていたオートチャージ特典を、年会費無料のau PAY カードにも拡大する。各種条件を満たすことで、ゴールドカードは最大5.5%、一般カードでも最大2.0%のPontaポイント還元が受けられるようになる。これらに伴い、総額1億Pontaポイントの山分けキャンペーンなども実施し、au PAYとau PAY カードの連携を強化していく姿勢を見せた。



しかし、中長期的な成長戦略が語られた一方で、その後の質疑応答においては、記者からの具体的な質問に対して「検討中」という回答が連発される結果となった。
発表会の中で計23回も「検討」という言葉が発せられたことからもわかるように、構想の具体化はこれからのようである。例えば、最大の目玉であるau PAYアプリの「ウォレット」への統合について、他のグループアプリとの連携を含めてどのような形を目指すのか問われると、「詳細は検討中でございます」と回答。新たに導入するというAIエージェントの具体的な役割や位置づけについても「これからの検討」に留まった。
さらに、成長領域として注目される暗号資産やWeb3関連サービスに関しても、KDDIがコインチェックに出資した背景があるにもかかわらず、「幅広に検討してまいりたい」と言及を避けた。加盟店向けの経営サポート「NESTA mobile」においてAIを活用するのか、リアルな人がサポートするのかという基本方針や、他キャリア陣営に対抗するためのキャリアフリーユーザーへのアプローチ戦略、KDDIグループの「Pontaパス」との連携、プラスチックカードの今後のあり方やクレジットカードでの直接決済機能の実装など、事業の根幹や利便性に関わる複数の質問に対しても、明確な方針は示されず「今後検討していく」との回答が繰り返された。システム基盤についても、現時点ではau PAYとau PAY カードのシステム統合の予定はなく、効率化できる領域は検討中であるとした。
国内のキャッシュレス市場は、通信各社を中心とした経済圏競争が激化し、各社がスーパーアプリ化やポイント連携などの具体策を次々と打ち出している状況にある。新生auフィナンシャルサービスが掲げる「Rewire」構想や2桁成長という目標は提示されたものの、2027年以降を見据えた戦略の多くが「検討中」の段階にある。今回の発表会は、新会社の船出をアピールする場であったが、成長戦略を支える具体的な道筋が見えず、市場の激しい変化のスピードに対し、先行きへの不透明感を残す内容となった。


