シャープ、世界的衛星オペレーターSESと提携 2027年より中軌道衛星通信サービスを国内展開へ

シャープ株式会社は2026年6月30日、衛星通信ユーザー端末に関する事業説明会を開催し、宇宙ソリューションを提供する世界的な衛星オペレーターであるSES社(ルクセンブルク)と、衛星通信サービス分野におけるパートナーシップ構築に向けて基本合意したと発表した。シャープは自社開発のユーザー端末とSESの通信網を組み合わせ、2027年より日本国内で企業向けの衛星通信サービスを開始し、2035年には衛星通信事業で売上高1000億円を目指す。

今回の提携により、シャープはSESが展開する中軌道(MEO)衛星通信サービス「O3b mPOWER(オー・スリー・ビー エムパワー)」の日本国内での提供に向けた協議を進める。MEO衛星は高度約8,000キロメートルを周回し、従来の静止軌道(GEO)衛星に比べて通信遅延が少なく、低軌道(LEO)衛星に比べ少ない衛星数で広域を安定的にカバーできるという特徴を持つ。SESはすでに世界中の政府機関や航空・海事分野などにサービスを提供しており、大容量かつセキュアな通信基盤を有している。

一方のシャープは、スマートフォンの開発で培った電波干渉抑制や回路の小型化・薄型化技術を応用し、平面形状のフラットパネルアンテナを搭載した衛星通信ユーザー端末を開発している。また、同社は5G関連の標準必須特許を多数保有しており、次世代の衛星通信規格である「5G-NTN(Non-Terrestrial Network)」の標準化活動において世界トップクラスの立ち位置にある。両社は互いの強みを持ち寄り、シャープが国内において端末の販売にとどまらず、回線提供、保守・設置、リアルタイム映像伝送などのソリューションを含めたワンストップサービスを展開する。

シャープが新規事業として衛星通信に注力する背景には、同社が掲げる「AI anywhere」というビジョンがある。現在、日本国内における携帯電話の人口カバー率は99%を超えるが、面積ベースで見ると地球上の約80%(陸上の40%以上および海上の大部分)は依然としてセルラー通信の圏外である。場所を問わずにクラウドAIを活用し、遠隔地での重機の自動操縦や船舶の自動航行、ドローンの経路制御などを産業の社会基盤として実装するためには、地理的制約を受けない衛星通信網の確立が不可欠となる。

さらに、市場拡大の最大の契機としてシャープが注目しているのが、2027年に予定されている5G-NTNの標準規格化である。これまで衛星通信は事業者ごとに独自の規格が用いられ、開発や普及の障壁となっていた。シャープのスマートワークプレイスビジネスグループ長である小林繁執行役員は、かつて携帯電話規格が標準化されたことでモバイル市場が爆発的に拡大した歴史を引き合いに出し、衛星通信の分野でも2027年以降に「ビッグバン」と呼べる市場の急成長が起きるとの予測を示した。

SES社から登壇したフィリップ氏(President Fixed Vertical)は、同社が約90基の静止軌道衛星と約30基の中軌道衛星を運用している実績を説明し、2027年の「O3b mPOWER」国内展開に向けてシャープの安価で標準化された端末が最適な組み合わせになると語った。また、2030年に向けては次世代のMEOコンステレーション「meoSphere(メオスフィア)」の運用も計画しており、市場の拡大に意欲を見せた。

技術開発の進捗について、シャープ通信事業本部長の中江優晃氏は、すでに電波暗室での試験や防水テストに加え、建機、船舶、ドローンを用いた実証テストを進め、実用レベルの安定した通信性能を確認していると報告した。また、他社での採用例が少ない高い周波数帯(Ka帯)を利用したフラットパネルアンテナの開発に成功している点は、同社の高い技術力を裏付ける競争力となっている。

シャープのロードマップでは、2027年に建機や船舶、企業のBCP(事業継続計画)用途などニッチなBtoB市場からサービスを開始する。その後、2030年頃の5G-NTN普及期に合わせて超小型端末を投入しドローンなどへ用途を拡大。2035年には自動車への搭載などマス市場への展開を図る方針である。説明会後の質疑応答では、先行する他社の低軌道衛星サービスとの競合について問われ、マルチオービットによる高いレジリエンス(通信の耐障害性)と、5G-NTN規格を用いた地上ネットワークとのシームレスな統合により差別化を図る考えが示された。

この記事を書いた人

海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けています。

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